自動化とデジタル化港湾の新技術

ITFに加盟する港湾労組は港湾の自動化を肌で感じています。新技術により、仕事が失われ、変わり、仕事場が移動してきました。

しかし、完全自動化港の話をよく聞きはしますが、世界のどこかに本当に人の手が全く要らない完全に自動化している港があるかどうかは疑わしいことも念頭においておく必要があります。港には複雑な機械やシステムが集積しています。その中には、タイヤマウント式ガントリークレーンのように比較的容易に人間から隔離し、自動化できるものもあります。  また、世界の港を取り巻く環境はまちまちです。しかし、全体的に見て、港の自動化は容易なことではありません。

例えば、船にコンテナを積みこんだり、船から積み下ろしたりするプロセスを自動化することは容易ではありません。船やコンテナは予測しない動きをします。潮位や風速、見晴らしなども変化します。こうした変化を予測することができるのは、しばしば経験を積んだ労働者だけということも多いのです。比較的予測可能な分野においてすら、労働者が自動化エンジニアを訓練し、彼らに業務内容を理解させて初めて自動化が可能になります。これはつまるところ、港湾労働者は将来自分たちに取って代わることになるテクノロジーを構築するために人間を訓練する手助けをすることを意味します。その他の形態のテクノロジーもまた、リモートコントロール(遠隔操作)の利用を通じ、事実上、労働者を港から遠ざけることにつながり得ます。そしてこれが現実に起きているのです。

ですから、自動化という場合、港全体の自動化というよりは、プロセスの自動化であるということ、また時に、会社が「港の自動化」と言っていても、実際には遠隔操作技術の導入であることがある点を肝に銘じておく必要があるのです。

これらの技術が使われると、やはり港湾労働者が仕事を失うことも起き得ますし、残った仕事も変化します。つまり、労働者は機械を操作する立場から機械の操作を監督する立場へと変わるのです。多くの港湾労働者にとって、新しい仕事は港湾労働とはまるで思えないものになるかもしれません。例えば、クレーンのオペレーターは今やクレーンに乗り込まず、陸にある事務所からクレーンを操作することが可能なのです。あるいは、外国から仕事をすることが可能なことすらあります。メルボルンやオスロの港湾労働者にとってはこれが既に現実となっています。したがって、港湾では、自動化と遠隔操作技術が合体し、様々な形で港湾労働者に影響を及ぼしています。しかし、自動化による失職だけが港湾労働者に及ぶ影響ではありません。港湾労働が消滅すると、港周辺の地域社会にも深刻な経済的打撃を与えます。このことは、港湾コミュニティにとってのより広範な懸念と捉えるべきです。

他の産業への影響と同様に、港湾においても、テクノロジーによって比較的スキルを要さない仕事で、監督者にとって業務の透明性が高まる可能性があり、これにより、仕事量と責任が強化されるかもしれません。 また、一部の業務はより知的に難しいものになっていく可能性もあります。つまり、仕事において肉体的に求められる部分は少なくなっていきますが、精神的に求められる部分が増えていくことになり得ます。さらに、一部の仕事の需要は縮小する一方で、他の仕事の需要が増えるでしょう。例えば、自動化された港では自動化エンジニアやセンサーなどの機器を保守する作業員が不足することになり得ます。こうした仕事をするために既存の港湾労働者を使いづつけることができない理由はありません。そのため、ITF加盟組合の中には、使用者にそれを約束させた組合もあり、既存の労働者を再度雇用するか、補償を行わせています。労働者への補償では、港湾労働者の業務内容と、労働者が 労働者にいずれ取って代わる機器のプログラミングを行う自動化エンジニアを「訓練する」ために知識を提供した点を考慮するべきです。

港湾の自動化を推し進める要因はたくさんありますが、間違いなく、「政治的な要因」もあります。港湾は経済的に戦略的であり、国際貿易の要衝でもあります。歴史が示してきた通り、このため、港湾労組は常に力をもち、しばしば政府が港湾労働者の動員に介入してきたのです。自動化により、港湾の仕事の数は減り、港の文化が変わり、港湾労組の力は弱まりますが、これには経済面と政治面の両面からの目的があるのです。これまでも、未組織の「未開発の」港をゼロから構築するという類似のプロセスを目の当たりにしてきました。こう考えると、自動化はもっと大きな組合潰しの一環として行われている可能性もあります。

世界には数千もの港がありますが、グローバル経済にとって重要なのはそのうちのほんの一握りです。そして、そのような重要な港の多くがオーストラリアなどのアジア太平洋地域、西欧、米国に所在しています。港の自動化が起きている、あるいは計画されている場所を見てみると、同じ地域にある港が主にその影響を受けていることが分かります。

アナリストのニール・ダビッドソンによれば、世界の港のうち、完全に自動化されているのは1%に過ぎず、半自動化港は僅か2%に過ぎないのです。自動化技術を提供する、ある企業は2020年までに自動化港湾の数が100になると予測しています。これが誇張であるにしろ、ないにしろ、今後、より多くの港が自動化、半自動化されていく可能性が高いことは明らかです。

港湾自動化の提唱者は、テクノロジーにより、人手は少なく済み、コンテナの処理量は多くなるため、最終的に人件費を6割カットできる一方、保守費用や燃料費も節約できると主張しています。全体の費用は約3割減らせると主張しています。

しかし、さらなる自動化の進展を阻止する要因がたくさんあります。一部のオペレーターは、自動クレーンは1時間に30回動作できると言いますが、これを達成することは容易ではなさそうですし、人間が働くターミナルと比べて必ずしも効率がいいというわけでもありません。同時に、自動化されたターミナルは人間が働くターミナルほど柔軟ではありません。取扱量が下がったり、別の港へ貨物が迂回されてしまったりした場合、サンクコストは甚大なものになります。自動化港湾はまた、ハッキングやコンピュータ・ウィルスに対しても脆弱です。その対策や問題発生時の修復にはコストがかかります。機械は減価償却され、急速に時代遅れにもなります。

港湾労働者は港への新技術の導入に反対しているのではありませんが、テクノロジーは高価で、柔軟性に欠け、人間ほど生産的でもないため、懐疑的になるそれなりの理由があるのです。しかし、本当の目的が労働組合を弱体化させることにある場合、こうしたことはどれ一つとして使用者にとって問題ではないのです。